婦人科外来

婦人科外来では、子宮頸がん検査を含む、子宮や卵巣の良性・悪性腫瘍の検査、子宮筋腫や子宮内膜症(卵巣子宮内膜症のう胞、子宮腺筋症)などの診断と治療を行います。また無月経、月経不順、不正出血、月経困難症、過多月経など、月経異常の診断と治療も行います。
 

思春期や更年期に起こりやすい月経異常や、更年期障害の症状に対しては、それぞれの症状にあわせた対処療法に加え、漢方療法やホルモン療法などにより症状の改善していくように治療を進めていきます。
 

クラミジアや淋病などの性行為感染症の診断と治療、経口避妊薬(トリキュラー・マーベロン)、子宮内避妊具(ミレーナ)、緊急避妊薬(ノルレボ)の処方とその処置、指導を行います。
 

日帰り手術として、流産手術(稽留流産・人工流産)、子宮頸管ポリープ切除術、バルトリン腺膿瘍穿刺・開窓術、膣壁および肛門尖圭コンジローム切除術、皮膚腫瘍切除術などを行なっております。子宮内膜ポリープ切除術や流産手術は静脈麻酔下に実施しますので、1日の入院が必要となります。
 

【月経異常】
月経は、排卵後に妊娠に至らなかった場合、卵胞ホルモンと黄体ホルモンが減少し、子宮内膜が血液とともに子宮外に排出されるために起き、消退出血とも言います。
月経周期とは、月経第1日目から次の月経第1日目の前日までの日数を示します。月経初日から排卵日までを卵胞期、排卵日から月経末日までを黄体期と呼びます。それぞれの正常範囲は月経周期:25-38日、卵胞期:12-24日、黄体期:11-14日です。また、初経年齢:10-14歳、閉経年齢:43-54歳、月経血持続日数:3-7日、が正常範囲です。
これらに当てはまらない場合を月経異常と言い、25日未満で出血が反復する場合を頻発月経、月経周期が39日以上3か月以内のものを希発月経、3か月以上月経がないものを無月経といいます。月経周期や月経血量、月経期間からみて正常な月経とは異なる出血である場合を機能性子宮出血といいます。
頻発月経は、初経から間もない時期や閉経前に見られ、排卵の有無により卵胞期の短縮、黄体期の短縮(黄体機能不全)、および無排卵周期症などがあります。希発月経は、無排卵周期症や卵胞の成熟が遅れることで卵胞期が長くなってしまうことが原因です。また14歳以降になっても初経がない場合を原発性無月経、43歳以前に閉経となってしまう場合を早発閉経と言い、卵巣本体や卵巣に指令を送る脳下垂体の機能に問題がある場合、子宮卵巣に形態的な問題がある場合などが考えられます。
 

月経周期には、脳の視床下部から分泌されるGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)、脳下垂体から分泌されるLH(黄体化ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)と、卵巣から分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)などのホルモンが関与します。これら視床下部−脳下垂体−卵巣系のシステムを制御し、安定を図る仕組みを「フィードバック機構」と呼び、システムの恒常性を維持するため、正と負のフィードバック機構により、これらのホルモン分泌は巧妙にコントロールされています。
月経異常は、この視床下部-脳下垂体-卵巣系において、内部および外部からの影響でそれぞれの組織の働きに不具合が生じ、ホルモン分泌が正常に行われなくなることで起こります。急速かつ大幅な体重減少のストレスに伴う「体重減少性無月経」や精神的ストレス後の無月経は、ストレスが視床下部の機能に影響を与える機能性視床下部性無月経といわれています。また不規則な生活や、糖尿病や甲状腺疾患などの病気が原因になることもあります。
 

月経異常の原因検索のためには、まずLH、FSH、エストロゲン、プロゲステロンなどのホルモン測定を行います。これらのホルモンは月経周期の中で変化しながら分泌されますので、検査を行う時期が重要です。LHとFSHは月経7日目までの初期値として、エストロゲンは初期値と排卵時卵胞期のピーク値として、プロゲステロンは排卵後7日目頃の黄体期のピーク値として評価を行います。
ホルモン分泌異常が発見された場合、原因が視床下部-脳下垂体-卵巣系のどの部位にあるかを知るため、Pテスト(プロゲスチン投与)とEPテスト(エストロゲンとプロゲスチン投与)を行います。Pテストで消退出血陽性の場合は第1度無月経、EPテストで消退出血陽性の場合は第2度無月経といいます。第1度無月経は軽度の視床下部障害と診断され、第2度無月経は視床下部-脳下垂体-卵巣系の高度な異常で、FSH値で視床下部障害型か脳下垂体障害型かの鑑別のため、負荷試験(LH-RHテスト)を行います。この試験はゴナドトロピン放出ホルモンを注射し、時間毎のLHとFSHの分泌反応性を評価します。また視床下部-脳下垂体-卵巣系のシステムに影響を与えるホルモンとして、TSH(甲状腺刺激ホルモン)、FT3・FT4(甲状腺モルモン)やPRL(プロラクチン:乳汁漏出ホルモン)、インスリンなどがあり、これらの評価と、必要に応じてTRHテスト(プロラクチン分泌能を調べる)やHOMA指数(インスリン抵抗性を調べる)などの負荷試験を行う場合もあります。
 

月経異常の治療はホルモン療法が主体となります。第1度無月経でエストロゲンが30pg/mL以上ある場合は、ホルムストローム療法を行います。この治療では、月経周期15日目からプロゲスチン製剤を10日間内服すると、内服終了後4日目から消退性出血を認めます。
第1度無月経でエストロゲンが30pg/mL未満の場合や、第2度無月経では、カウフマン療法を行います。この治療では、月経周期の前半でエストロゲン製剤を10日間、後半でエストロゲンとプロゲスチン製剤を10日間内服します。内服終了後4日目から消退性出血を認めます。カウフマン療法中は下垂体機能が抑制され、カウフマン療法中止後には視床下部-下垂体の機能が活性化して、卵胞発育とそれに引き続いて排卵が誘発されると推測されます。このリバウンド現象によって、その後の自然排卵周期が期待されます。またカウフマン療法は、繰り返す不正性器出血や子宮発育不全、不妊治療中の子宮卵巣のコンディション作りの時にも用いられます。
ホルムストローム療法、カウフマン療法ともに3か月間で3回の治療を1クールとし、その後1-2か月間の休薬期間を設け、月経周期が正常に戻ったかどうかを判定します。休薬期間中に月経異常が改善していなかった場合は、再度治療を繰り返します。月経異常ためのホルモン療法の治療は、途中で止めることなく根気強く継続することが重要です。

 
【子宮筋腫】
子宮筋腫とは子宮にできる良性腫瘍で、30歳以上の女性の20-30%にみられます。子宮筋腫は卵巣から分泌されるエストロゲンの刺激と、子宮の血流によって大きくなります。発生する場所によって、子宮全面を包む漿膜の直下で発育する漿膜下筋腫、子宮筋層内で発育する筋層内筋腫、子宮内膜の直下に発育する子宮粘膜下筋腫に分けられます。

 

子宮筋腫の主な症状は、過多月経、月経困難症、不正出血などがあります。大きくなると、骨盤底や膀胱の圧迫による腰痛症や頻尿などの症状が発生する場合があります。漿膜下筋腫では大きくても症状がない場合がありますが、筋層内筋腫や子宮粘膜下筋腫では、小さくても症状が強くなる場合があります。妊娠を希望される方の場合、子宮筋腫が不妊症や切迫流早産の原因となる場合もあります。

 
子宮筋腫は婦人科診察と超音波検査で診断します。大きな筋腫や手術療法を検討する場合、内科的治療の治療効果判定を行う場合にMRI検査をすることもあります。大きな子宮筋腫は、悪性の子宮肉腫との区別難しいことがあり、MRI検査や大きさ、年齢、発育速度などで判断します。また子宮粘膜下筋腫では子宮鏡検査を行う場合もあります。子宮鏡とは直径3mm程度のファイバースコープで、経膣的に子宮内腔を観察します。超音波検査やMRI検査と合わせて行うことで、子宮粘膜下筋腫の正確な大きさや数、位置などを知ることができます。
 

治療には手術療法と薬物療法などがあります。手術療法には、子宮筋腫だけを切除する子宮筋腫核出術と、子宮を含めて摘出する子宮全摘術があります。閉経前であれば、原則卵巣の摘出は行いませんので、子宮全摘出術後に卵巣ホルモン欠落症状が出ることはありません。手術の方法としては、開腹術と腹腔鏡下手術があります。腹腔鏡下手術は傷が小さくて済むので、出血量が少なく体への負担が軽くて済みます。入院期間も開腹手術よりも短くなるなどのメリットもありますが、過去に開腹手術の既往があったり、サイズの大きい筋腫や多発性筋腫、筋腫の位置によっては腹腔鏡手術の選択ができない場合もあります。妊娠を希望される方の場合、手術療法を行なった場合、大きさや場所によっては、分娩方法が帝王切開となる場合もあります。
 

特殊な治療方法として、子宮鏡下手術や子宮動脈塞栓術という方法もあります。子宮鏡下手術とは、子宮鏡検査で使用される軟性鏡とは違い、それよりやや太い硬性鏡のファイバースコープを使用します。電気メスを併用することができ、経膣的に子宮粘膜下筋腫をモニターで確認しながら切除することができます。腹腔鏡手術よりもさらに負担が軽いメリットがありますが、特別な技術が必要であり、実施できる施設が限られています。子宮動脈塞栓術とは、子宮動脈の血流をカテーテルを用いて塞栓物質で人工的に塞ぐことで、腫瘍への栄養供給を止める治療法です。子宮筋腫による臨床症状があり、対症療法では改善が見込めない、閉経前である、妊娠していない、将来妊娠を希望しない、外科的療法を希望しない、外科的治療では合併症の確率が高い、子宮がん検診で悪性の腫瘍が見つかっていない、などの条件を満たす必要があります。
 

【子宮内膜症】
子宮内膜症とは、子宮内膜またはそれに似た組織が、何らかの原因で、本来あるべき子宮の内側以外の場所で発生し、発育する疾患です。子宮内膜症ができやすい場所として、卵巣、卵管、子宮、子宮と直腸の間のくぼみ、子宮と膀胱の間のくぼみ、子宮を後ろから支える靭帯、などがあげられます。子宮体部筋層に子宮内膜症の病巣が存在するものは、子宮腺筋症といいます。稀に、肺や腸にもできることもあります。
 

子宮内膜症の原因は諸説ありますが、子宮内膜移植説(月経逆流説)が現在広く受け入れられています。これは、月経時に卵管を通じて逆流した月経血中の内膜組織が、骨盤腹膜や卵巣表面に生着し侵入・進展することで、卵巣子宮内膜症のう胞(チョコレートのう胞)のみならず、深部内膜症や骨盤腹膜内膜症を引き起こすという説です。また、免疫学的異常も背景にあるといわれています。
 

子宮内膜症は、病巣が月経周期に合わせて増殖し、月経血が貯留したり、周囲組織と癒着を起こし、多様な症状が発症します。月経困難症(月経痛)は子宮内膜症患者の約90%にみられます。この他、月経時以外の腰痛や下腹痛、排便痛、性交痛などがみられます。また、子宮内膜症によって引き起こされる癒着や、骨盤内の炎症は、女性不妊症の原因となります。妊娠の希望のある内膜症患者の約30%に不妊があると考えられています。
 

子宮内膜症の診断は、内診・直腸診、超音波検査、MRI検査によって行います。超音波検査では、子宮や卵巣に内膜症の病巣の有無を確認します。MRI検査では、子宮・卵巣の病巣に加え、腹膜や腸の表面などに存在する病巣も確認することができます。補助診断として、腫瘍マーカー(CA125)の値も参考にします。
 

子宮内膜症の治療法には、薬物療法と手術療法があります。症状の種類や重症度、年齢、妊娠希望の有無などを総合的に判断し、適切な治療法を選択していきます。痛みに対しては鎮痛剤を使用しますが、効果が得られない時は偽閉経療法やホルモン療法(LEP療法、黄体ホルモン療法)を行います。
 

偽閉経療法とは、Gn Rh analog(ゴナドトロピン放出ホルモン作動薬)により、エストロゲンを低下させ閉経期と同じようなホルモン状態にすることで、子宮内膜症の進行を抑え、病巣を縮小させる治療法です。副作用としてほてり、のぼせ、発汗、肩こりなどの更年期症状がでることがあります。LEP療法(低用量ホルモン療法:低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)では、排卵および子宮内膜の増殖が抑えられるため月経痛が軽減されます。骨塩量低下を起こさないので長期間の使用が可能ですが、血液凝固や肝機能障害などの副作用ががあります。黄体ホルモン療法では、ジエノゲストやジドロゲステロンという種類の黄体ホルモン剤を使用します。これらの黄体ホルモンは、子宮内膜症の病巣に直接働きかける作用があります。長期服用が可能で、血液凝固異常なども少ないといわれています。
 

卵巣子宮内膜症性のう胞や子宮腺筋症などの病巣部がはっきりしている場合、腹腔内に癒着があり疼痛の原因となっている場合は、手術療法を考慮します。妊娠希望の場合は、病巣部のみを切除し、癒着剥離術や腹腔内洗浄が行われます。妊娠を望まない場合には、病巣のみの摘出に加えて、子宮、卵巣および卵管などを摘出することもあります。手術の方法としては、開腹術と腹腔鏡下手術があります。腹腔鏡下手術は傷が小さくて済むので、出血量が少なく体への負担が軽くて済みます。入院期間も開腹手術よりも短くなるなどのメリットもありますが、過去に開腹手術の既往があったり、癒着が強い場合は腹腔鏡手術の選択ができない場合もあります。
 

【細菌性膣炎と細菌性膣症】
女性において、腟炎・腟症は、異常帯下を主訴とする疾患概念で、細菌性膣炎と細菌性膣症があります。細菌性膣炎とは、外陰部膣カンジダ症、膣トリコモナス症、淋菌性膣炎など、特定の原因微生物によって引き起こされる特異性膣炎です。治療の基本は局所療法であり、それぞれの原因微生物に対する抗菌薬の使用と膣洗浄です。
 

一方、細菌性腟症は、常在菌叢の崩壊により起こるもので、特定の原因微生物は存在しません。乳酸桿菌(ラクトバチルス)が優勢の膣内細菌叢から好気性菌のガーデネラ菌、嫌気性菌のバクテロイデス属、モビルンカス属などが過剰増殖した複数菌感染として起こる病態として考えるえられていますが、病因は未だ完全には解明されていません。
妊娠中の細菌性膣症によって、病原性細菌が子宮頸管を通過して子宮内に到達すると、絨毛膜羊膜炎という炎症が引き起こされる可能性があり、自然流産のリスクが9.91倍、早産のリスクが2.19倍に上がることが報告されています。
細菌性腟症の治療も、基本は局所療法であり、抗菌薬(メトロニダゾール)の使用と膣洗浄です。ただし無症状の場合は、必ずしも治療の必要はありません。
 

【膣および子宮内細菌叢】
健康な女性の膣内には、ラクトバチルス属細菌が豊富に存在します。ラクトバチルスは乳酸や抗菌物質を産生し、膣内にpH2-3の比較的酸性の強い環境を作り、感染症から膣内を守る役割を担っています。
一方、子宮内の細菌環境については、これまで子宮頸管から分泌される頸管粘液バリアの働きによって、無菌状態が保たれていると考えられてきました。しかし、最近の子宮内細菌環境を、微生物のDNA配列分析によって解析した研究によると、子宮内にもラクトバチルス属細菌が多く生息していることが判明しました。
 

不妊症と、膣および子宮内細菌叢の関係を調べた研究によると、正常な子宮内の細菌叢は着床期間中非常に安定に保たれており、細菌叢中のラクトバチルス属細菌の割合の低下が、女性不妊症治療の妊娠率の低下と相関していることが判明しました。これは子宮内細菌叢が乱れ病原性細菌が増えると、子宮内膜で免疫が活性化し、受精卵を異物として攻撃してしまう可能性が指摘されています。
また、子宮内細菌叢の乱れは、女性不妊症だけでなく、子宮内膜炎や絨毛膜羊膜炎などとの関連も指摘されています。子宮の炎症性疾患として代表的な子宮内膜炎は、大部分は上行性感染であり、起炎菌として連鎖球菌、ブドウ球菌、大腸菌、嫌気性菌などがあります。妊娠期にこれらの菌が、胎盤の一部である絨毛や羊水に感染すると絨毛膜羊膜炎を引き起こし、流産や早産の原因になります。
このような感染は、軽度の子宮内細菌叢の乱れに起因すると考えられ、初期の段階での子宮内細菌叢の改善が大切です。考えられる対応として、食生活による環境の改善、すなわち食事やサプリメントから葉酸、ビタミンE、カルシウムを摂取量を増やすことで、細菌性膣症の症状を軽減する傾向が報告されています。また、生活習慣の改善、膣内洗浄、抗生物質の投与やホルモン療法などがあります。しかし、これらの対応だけは、子宮内環境の改善に十分な効果が発揮できず、さらに、抗生物質単体投与を行うと、病原性細菌だけでなくラクトバチルス属細菌も区別なく殺菌してしまうため、ラクトバチルスを増やす効果が低いとされています。
 

【ラクトフェリン】
膣内の病原性細菌は、子宮頸管粘液で遮断され、腹腔に交通する子宮内に到達することができません。この局所免疫にはラクトフェリンという物質が免疫バリアとして働いていることが知られています。ラクトフェリンは、哺乳動物の乳汁中に含まれている、鉄結合性タンパク質です。ヒトでは、母乳、特に初乳に多く含まれ、成人では涙液、唾液、膵液その他の外分泌液や好中球に含まれています。また、女性ホルモンであるエストロゲンにより発現が誘導されるタンパク質でもあり、子宮内膜細胞にも多く存在しています。
病原性細菌の細菌細胞壁には、構成成分の一種であるリポ多糖という物質が存在しています。リポ多糖は動物に対して強い毒性をもち、内毒素(エンドトキシン)と呼ばれており、細胞の溶解が起こったときに遊離し、生体に様々な炎症性反応を引き起こします。ラクトフェリンは、このリポ多糖に結合することで、その作用を大幅に減じる拮抗作用を発揮します。また細菌の生存および増殖に必要な鉄を奪う能力や、生体の正常な上皮細胞への病原性細菌の付着や侵入を阻害する能力など、いくつかの抗菌活性を有していることが報告されています。
 

最近の研究で、妊娠性鉄欠乏性貧血の妊婦にラクトフェリンを投与したところ、膣内の細菌叢が改善し感染症が治癒、早産リスクが低下したとの報告があります。また細菌性膣炎の患者にラクトフェリンを投与したところ、2週間後の膣内の病原性細菌は著明に減少し、ラクトバチルス属細菌が増加しており、ラクトフェリンは膣内での抗菌作用に有効であることが示されています。
このように、ラクトフェリンは生体の中で産生されるタンパク質であり、外部から侵入しようとする病原性細菌に対しての防御機能の一つです。必要に応じてサプリメントとして摂取することで、その抗菌作用を増加させる効果があります。
 

【更年期症候群】
初経開始以降、妊娠、出産、閉経と、女性のライフスタイルは女性ホルモン(エストロゲン)の変化に大きく影響を受けます。女性ホルモンは、初経の頃から分泌が増え始め、20歳代から30歳代に分泌のピークを迎えます。そして40歳を過ぎると徐々に減少が始まり、45歳頃から55歳頃に急激に低下します。閉経をはさんで10年位を更年期といいます。更年期症状とは、順調に分泌されていた女性ホルモンの分泌が急速に低下してしまうことで、身体自身がその変化に適応できずに引き起こされる症状で、「女性ホルモン欠落症状」ともいわれます。
 

更年期症状には「身体的症状」と「精神的症状」があります。「身体的症状」は、ほてりやのぼせ、動悸、発汗、肩こり、腰や手足の冷え・関節痛、目の疲れ、耳鳴り、膀胱炎症状など、「精神的症状」は、不眠、イライラ、不安感、抑うつ気分、無気力、めまい、頭痛などです。このように更年期症状は様々な症状が混在して発症する、不定愁訴が特徴的です。また更年期症状は、個人の女性ホルモンの減少の程度や、その人の性格、とりまく社会や文化の影響を受け、症状の程度も人によって大きく差があります。夫の定年、親の介護、子供の進学、就職、結婚など家庭環境が大きく変わりやすいのもこの年代です。更年期症状をほとんど感じることなく更年期を過ごす人も入れば、いくつかの症状が重なって、日常生活や仕事にまで影響の出る人もいます。
 

更年期障害の治療には、①漢方療法、②ホルモン補充療法、③補完代替医療があります。漢方療法では、頭痛、肩こり、ほてりなどの個別の症状を、漢方に含まれる生薬の成分で改善させることができます。更年期症状に効果のある漢方薬はたくさんあり、軽度の更年期症状であればとても良い効果が得られる場合があります。しかしこれらの治療でも効果が得られない場合はホルモン補充療法が選ばれます。
 

ホルモン補充療法は、主にエストロゲンという女性ホルモンを補充することで更年期症状を改善させる治療です。長期的に使用することで子宮内膜への影響がありますので、子宮のある方は必ずプロゲステロンという女性ホルモンも一緒に使用します。治療効果や効果の現れる期間は症状や程度によって様々ですが、ほてり、発汗、冷え、動悸などの自律神経症状は2週間位で比較的早く効果が現れ、不眠、イライラ、抑うつ気分などの精神神経症状の治療効果は個人差があります。内服薬が一般的ですが、最近では貼付剤や塗布剤もあり、その人のライフスタイルに応じて使い分けることができます。
 

漢方療法やホルモン補充療法に加え、最近では補完代替医療として大豆イソフラボンや動物胎盤抽出物、ブドウ種子ポリフェノール等によりほてりを含む更年期症状が改善すると言われています。大豆イソフラボンの一種ダイゼインの腸内細菌分解産物であるS-エクオールにはエストロゲン作用、抗酸化作用、抗エストロゲン作用、抗アンドロゲン作用があり更年期女性の健康維持について良い効果が期待されています。エクオールはエストロゲン受容体に入ることでエストロゲンに似た働きをし、更年期症状の改善や骨粗鬆症の予防と改善に効果があります。一方でエクオールは過剰なエストロゲン作用を弱め、過剰なアンドロゲン(男性ホルモン)作用をブロックするなどの働きもあり、乳がんリスクを下げる可能性や脱毛の改善に効果が期待されています。
 

豆腐や豆乳、納豆などの大豆製品を摂取し、体内の腸内細菌の働きでエクオールは作られます。しかし食環境の西洋化に伴いエクオール産生菌をもつ人の割合が日本人では56%といわれており、またエクオールを作り出せる人でも食生活や体調により腸内環境が変化し産生できなくなる場合があります。エクオール検査を行い、エクオールを体内で作れないと分かった場合は、サプリメントとして摂取することも可能です。当院ではエクオール検査とエクオールサプリメントの指導を行なっております。
 

【骨粗鬆症】
大根やごぼう、すいかなどの野菜・果実類で「鬆(す)ができる」と言うことがあります。これは組織が外側に向かって成長し過ぎることで内部が割れ、空間が出来てしまった状態です。骨粗鬆症とは骨の中に海綿状に小さな空間「鬆」が多発し骨がもろくなる病気で、日常生活程度の負荷でも骨折をしやすくなります。骨折による痛みや障害はもちろん、大腿骨や股関節の骨折はいわゆる高齢者の要介護状態につながり、生活の質(QOL)を著しく低下させる原因の一つに挙げられています。
 

骨は常に骨芽細胞(新しい骨を作る細胞)と破骨細胞(古くなった骨を破壊吸収する細胞)によって骨の形成と吸収がバランスよく行われ、一定の量を保っています。しかし女性の場合、更年期・閉経期以降に性ホルモンであるエストロゲン量が急速に低下するため、男性よりも骨粗鬆症へと進みやすいと言われています。エストロゲンには骨芽細胞の活動を高める作用があるのと、女性は男性に比べてもともと骨量が少ないためです。また、妊娠に伴い骨粗鬆症が発生することもあり、これは母体のカルシウムが胎児に移行してしまうことが原因と言われています。厚生労働省などによると、骨粗鬆症は高齢女性を中心に年々増加しており、自覚症状のない方を含めると780万-1100万人の患者がいると推計されています。患者の8割は女性で、60代女性の3人に1人、70代女性の2人に1人が患者になっている可能性があると報告されています。
 

骨粗鬆症の治療の目的は骨折の予防であり、そのためには骨粗鬆症の早期発見が重要です。「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン」では、全ての65歳以上の女性に対し骨密度測定を推奨しています。骨密度の評価にはX線を用いる方法と超音波を用いる方法があります。X線を用いる方法は、二重エネルギーX線吸収測定法と呼ばれています。椎骨や手足の末梢骨に2種類のエネルギーのX線を測定部位に当てることにより、骨成分を他の組織と区別して骨密度を直接測定する方法です。超音波を用いる方法は踵骨定量的超音波測定法と呼ばれ、踵(かかと)の骨に超音波を当てその骨内を伝搬する超音波の減衰や速度を計測し骨密度を推定する方法です。当院では踵骨定量的超音波測定法による骨粗鬆症の診断を行なっています。この方法は骨密度を直接評価してはいませんが、骨折リスクを予測することができ、放射線を使用しない利点があります。骨密度測定値はYAM比(若年成人女性平均値との比)として評価されます。YAM比が70%未満のときに骨粗鬆症と診断され、70%以上80%未満では「骨量減少症」と診断されます。
 

骨粗鬆症は日常の生活で骨折を起こしやすく、そのためにQOLの低下を引き起こし、要介護状態になってしまう高齢者の方々が存在します。「骨粗鬆症の治療と予防のガイドライン」によれば、骨粗鬆症の予防には、①適正体重の維持、②適切な運動と栄養、③喫煙と過度のアルコール摂取を避ける、という3点が推奨されています。過度の肥満ややせの方は日常生活の食事内容を見直す必要があります。目安はご自分の18歳から20歳頃の体重と言われています。椎骨や大腿骨など体の大きな骨に対する運動刺激は、骨代謝を活性化し骨粗鬆症の予防になります。栄養の点では、1日当たりの栄養素の摂取として、食品からカルシウム700-800mg、ビタミンD 10-20μg、ビタミンK 250-300μgが必要で、これらは骨の形成過程で重要な材料となります。喫煙や過度のアルコール摂取は骨折の危険因子として証明されています。
 

【月経時片頭痛】
頭の片側で、心臓の拍動に合わせてズキンズキンと脈打つような頭痛発作で、定期的に表れる慢性頭痛のことを「片頭痛」と言います。時には強い吐き気や嘔吐を伴う場合もあります。片頭痛を経験する女性は男性の数倍にも上り、20歳から40歳までの女性の有病率は20%といわれています。片頭痛が女性に多い理由として女性ホルモンとの関係が指摘されています。
 

片頭痛がなぜ起こるかは、まだはっきりとは分かっておりません。何らかの刺激で脳血管が拡張、炎症が引き起こされ、その刺激による興奮が脳に伝えられて頭痛や吐き気、嘔吐などを引き起こしていると考えられています。片頭痛を引き起こす要因として、ストレスや緊張、疲労、睡眠不足など精神的なもの、天気や温度差、気圧など環境的なもの、アルコールやチョコレートなど食事性のものに加えて、月経周期も大きな要因となります。
 

月経周期に伴うエストロゲンの分泌量の変化と、血管収縮作用のあるセロトニンという脳内物質の量の変動とが月経時片頭痛と関係しているようです。エストロゲンにはセロトニン合成作用があります。月経前にはエストロゲンの血中濃度が下がり、同時にセロトニンの濃度も低下し、結果としてセロトニンの血管収縮作用が低下、脳血管の拡張から片頭痛を引き起こすと考えられています。
 

月経時片頭痛は月経数日前から月経中にかけて起こることが多く、ほかの時期に起こる片頭痛よりも持続期間が長く、薬が効きにくいことが特徴です。このような持続時間の長い片頭痛に関しては、月経開始1週間前から予防的に鎮痛剤を内服する方法も効果的といわれています。漢方薬との併用や、セロトニンの作用を補助する薬の効果も期待できます。またアミノ酸の一部や、ビタミンC、ビタミンB群、カルシウム、マグネシウム、鉄などはセロトニンを合成する材料となりますので、栄養指導によって症状が改善する場合もあります。
 

【過活動膀胱(OAB:Overactive Bladder)】
OABとは、急に起こる我慢出来ないような強い尿意(尿意切迫感)を主症状とする症候群です。OABでは少量の尿で膀胱が過剰に収縮してしまい、我慢出来ないような強い尿意切迫感が急激に起ります。昼間に8回以上の頻尿や、夜間に1回以上の夜間頻尿、切迫性尿失禁(尿意が強く、トイレにたどりつく前に尿が漏れてしまう)などの症状を伴う場合にOABが疑われます。ただし脳・脊髄神経の疾患、前立腺肥大症、加齢による膀胱機能の変化や、特発性の場合は除外されます。問診や「過活動膀胱症状質問票」により過活動膀胱の診断や重症度を評価します。
 

治療として行動療法(生活指導・膀胱訓練・骨盤底筋体操)、薬物療法(抗コリン薬・β3受容体作動薬)があります。行動療法のうち、生活指導では、1日の尿量に合わせて過剰な水分摂取を控えたり、カフェインの摂取を控えるなど、日常生活の見直しを行います。膀胱訓練とは、尿を膀胱に溜める練習です。排尿日記をつけ自分の排尿パターン(尿量・頻度・間隔など)を確認し、排尿計画を立てます。排尿計画は短時間から始め、徐々に排尿間隔を延長し、最終的に2-3時間の排尿間隔が得られるように訓練をすすめます。骨盤底筋体操とは、骨盤の底にある筋肉を鍛える体操で、切迫性尿失禁に効果があります。
 

薬物療法のうち、抗コリン薬は、膀胱の収縮を抑えて、尿意切迫感も改善する薬剤です。副作用として口渇や便秘、ものがかすんで見える、めまいなどがあります。緑内症の方は使用できません。β3受容体作動薬は、尿を溜める際に膀胱の広がりを促進する薬剤で、口渇や便秘の副作用が少ないと言われています。

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